「旅立ち」
黒く映る食べ物を食べていた。心音がとくとく鳴って、生きている。私は生きていると、確かめる。でも、情報がモノトーンで。 フォークとナイフは白で、食べ物は黒、 流れている音楽も白と黒で。 音符が黒で、余白は白、 五線譜が黒だからちゃんと音程は合っていて。 耳に聴こえる、その音は私の心臓に届いて、心を打つのを助けてくれる。 ただ、生きている世界で。そう思っている。 食事を終えて、会社に戻る。白と黒のキーボードを打ち、白黒画面のパソコンを眺めて泳いでいく。その時私は魚になる。 周りの魚も泳いでいて、白黒に挨拶を交わすこともなく、前を向いて潮の流れに沿って泳いでいく。皆の白のうろこは、はがれてそれぞれの仕事を知らせる。うろこには黒の情報が書き込まれている。私も皆と同じように前を向いて、誰がその情報を拾うかを知らない。別にそんなことはどうだっていい、全てモノトーンだから。 考えることはできる。ただ、情報がモノトーンでそれに支配されていくようで、そのように考えて心も灰色になっていくのがわかる。ふと、いつの間にこんなことにと思おうとしたが、すごくめんどくさくて、それは心が灰色になってきているから。 休み時間に白の鏡を見たら顔は真っ黒で白みもなく、顔もないんだ、と思った。また心が灰色になっていく。せめて、食事をして音楽を聴いて心を打つ。まだ、生きている。 どこかに、どこかに何かがあると感じられはして、何とか心を打って考える。それについては、多分、としか手がかりが現れずに、また灰色になっていく。そうして、またパソコンを泳ぐ。 忙しくも、苦しくも、干渉も、厳しさもない。そうして、次第に、多分、さえ無くなっていくことが分かる。人間のように魚のように、もうどれでもなく。 朝があり、昼があり、夜があって、そのどれもが白黒で私の心だけが灰色なのだと思っていた。 休みの日に白黒の映画を見た。「旅立ち」という題名の映画だった。 出会いがあって、別れがあった。 エンドロール画面が流れていき、最後の方で題名が上へと流れていったのだが、ハテナ、と思った。私の灰色になりかけている鈍い心でも気づき、感じられた。 それは、白黒の情報ではないことに心は気づいた。今の情報は何か、私は泳いだ。映画の中をひたすら泳いだ。感じる、何か色がある。 題名だ...