伝命使(ⅲ)



あの子の質はこれからだが、憐れむ者にしたくない。ネイルズの影響を感じる。質に響いたのが始まりだが、あの子は変われる。生きた心を唄う人にしたい。あの女の子はどうしている。



高校受験に失敗して、僕は私立の高校に進学していた。ギターはそれでも買ってもらえて、よく練習をした。コードのことが分からなくて、よく暗い音を鳴らしていた。それは気持ち良くて、そんな時僕はつまらない大人を蔑んで(さげすんで)歌詞を唄い始めていた。
高校では音楽の時間があって、僕はクラシックギターを選んでその時間を過ごした。暗い音を鳴らしていると、音楽の先生が、
「ここと、ここ」
と教えてくれて、綺麗な音が響いた。
何でも出来そうな気がして、音楽の先生は、
「どっちもあるんだよ」
と教えてくれた。
何を教えてくれたか、心が止まった様に分からなかったが、先生は、

「あたしはね」

と言った。


大きな存在が動いていたことを知る。私の名前は魂、今は全てがそろいの名前。あの子を持ち去りたい。光のような小さな幼子。私に教えてくれた。でも、私はもう魂。忘れて行く。
どうか唄って、思い出すことが出来るから。少しの時間抱きしめた私の子。


いい加減に引き受けた、この役目を終えたい。
悪魔は相変わらず喜んでいて、それでも姿は現さない。
悪魔そのものかも知れない、と思っても、
命が消えてあの子を求める。
オレにはそれ位しか唄えない。
さあ、行ってくれ。                         「ゴースト」



僕は大学生になっていて、自分が何者なのかなどと思う様になってしまっていた。それを確かめるために議論することもなく、そんなことは恥ずかしいことだと当たり前に思っていた。哲学のことも少し興味はあったが、それに手を出すことも恥ずかしかった。そんな風にふらふらと学生の時間をさまよっていた。命が弱いぞ、と父親に言われて、鏡を見ると中学生の時の様に顔が青白かった。
この授業を受けた方がいい、と教授が講義で言っていて、それは哲学の講義だった。
私は途中から、その講義に無断で出席していて、講師は老人だった。癌(がん)を患ったそうで、頭髪がなくなっていた。その声が震えていて、私は涙を流していた。それは震えていた私の魂だった。
伝えたい、と私は思った。
その場で頭に響いた感情だったが、食堂で昼食を食べている時、何を伝えたいのだろうか
考えてみた。考えて行くうちに、命の震え、つまり生きているその源にどこか存在している意義。人の命の意味、なのだろうかとそこに行き着いた。
大袈裟だ、と冷たい果物ジュースを飲んで、でも忘れない様にしよう、と思った。
ふうわりと、生きられたら、と思うけれど、

あたしも無理だったなあ。

だから、聴いていたの。

聴かせて、あなたの唄。


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