ペルソナⅠ


高校三年生の夏休みが始める前の日、雨が降っていた。窓の外から土の蒸せた匂いがして、私は教師の話を聞いていた。右の向こうのクラスメートの席が暫く空席だったことを思っていて、休み時間その子と仲が良かった二人に尋ねた。
「あいつ、どうしたんだろう」
 二人は顔を見合わせて、にやにや笑って何も言わなかった。
 大体、理解して外ではまだ雨が降っていた。鼻の奥に血の匂いを感じて、少し味もした。


 その内、大学に進んで社会人になり、それなりに給料を貰って生きて行くのだと思っていた。大学は合格して東京に。そして、わたしは眼の前にあった全ての現実を諦めていた。 ペルソナ、心の仮面という意味の名前を与えられて、私は世界の一人として生きている。今、私にはその資格があると知っている。


 雨が降っていて、血の匂いが溢れる。報告を聞いて私は「雨」をソファに寝かせた。心の波が高くなるのを抑えて、それを整えて「雨」からの気配に気持ちを傾ける。
 「雨」は冷静な様で怖がっていた。外の窓に雨が打つ音がしていて、それは思ったより安定していた。
「大丈夫、眠りなさい。あなたはあなたにしか出来ない役割を果たした。皆が出来ないことをあなたはしている。いつも感謝している。私たちの世界をまたあなたは救った。私の安寧もあなたのおかげで、与えられている。後は全て世界が整えてくれる。ゆっくり深く沈みなさい。雨の音を聞いて休むことが出来るから」


 あの時、全ての時が止まった様な気がしていた。それをしていて、血が激しく巡ってとても熱かった。私は大声を上げて叫んでいた。匂いが立ち上って。


 相手の言う通りにした。事前に言うべきことはメモをして憶えた。
 全てが終わって、私はラーメン屋で礼を言った。にやにやして相手は自信に満ちた顔をしていた。いつも通りがその内、出来ると思っていた。
 ベランダで洗濯物をしていると、外でスーツを着た老人が私を見ていた。老人は黒い眼の仮面を顔に乗せて、またそれをスーツの脇に仕舞った。その脇にガンホルダーの様な物が見えた、と思ったら何故か私はぼーっとしてしまって、気付いたら老人はいなかった。
 自宅のドアの外から声が聞こえるようになって、全て私のしたことの噂の様だった。私はそれが本当に私のことを言っているか確かめるために何時もドアに近づいてそれを聞いていた。どうしても、私のことを言っている様に感じた。
 貰っている薬剤を噛んで飲むようになった。よく薬を吸ってくれる様にと思って。眠れない時はそのままアルコールを飲んで眠っていた。
 朝、少女が現れて私の首を強く締めて息が出来なくなった。もの凄い力だと思って、眼が覚めて。汗を多量にかいて、呼吸は荒かった。朝の九時を過ぎていて、起き上がってトースターでパンを焼いた。テレビを付けると報道が流れていて、即席のスープの素に湯を入れて、焼けたパンを齧った。
 これから、どうしたら良いだろうか、と考えていると弁護士が殺害された、と報道は知らせた。あの自信に満ちた顔の男。

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前向きにいきたいね。