ペルソナⅣ

 私は深夜のマクドナルドで、小説の構想を立てていた。大学時代、ゼミの先生に文章を褒められて以来、物を書く人に憧れて、小説家を目指す様になっていた。就職をして仕事を始めてから、変わらず大変なこともあるのだが、小説を書く時間は確保出来る様になっている。今回で何作目になるか忘れたが、心の仮面を持つ人間の話にしたいと思っている。


 私は私の血のあの匂いが染みて、鼻の奥にあるかの様に。人が流した血でそれを全て洗いたい。もう、あんなのは見たくない。ここにいるとそれがなくて、そうしていられる。ただ、あの鼻の奥の血が纏わりつく。人が流した本物の血の匂いで、温かい香りでそんな物全て変えられる。私には「雨」が必要だ。私の奥のあんなのをいつも流してくれる。
 全て殺して、どうか殺してくれ。私は楽になれる。殺してくれたら楽になれる。
 雨が降っている。獲物は常に存在していて、複数に重なっていることが多い。今日は「雨」は現れるだろうか。春からの連絡はない。魚は自由に泳いでいる様だ。
 夜になっても「雨」は現れなかった。暫く、雨が続くらしい。私は喜びで眠ることが出来なかったが、その内仮面をイメージして心を覆うと穏やかに眠ることが出来る様になっていた。
 雨の中、魚は泳いでその内血を流す。一度血を流したら、匂いを嗅ぎつけられて全て失うだろう。それは春の仕事だ。全てが変えられる。全てを変えてくれる。ざまあない。


 雨がその内止んで、気象予報より早くに晴れた。カーテンを開けて朝陽を浴びて、何て気持ちが良いんだろう。私は小説で予想を裏切る思考が苦手だが、一度そんなのを書いてみたい、とぶつぶつ考えが浮かんでコーヒーを淹れる準備をした。


 雨が降っていて、血の匂いが立ち上っていた。私は喜んで「雨」を迎え入れた。
「よく来てくれたね。ここで休みなさい。さあ、またスープを作っている。ゆっくり飲むと良い」
 「雨」は震えていた。私は欲情した様に全身に血の熱さを感じて、その姿を見ていた。
(どんな風に殺した。よく血の匂いを運んでくれたね。相手の表情が知りたい)
 私は強く「雨」の腕を握って、ソファへと導いた。まるで女性を導く様な気持ちだった。初めて殺した時。
「雨」は、
「痛い」
と言った。私ははっとして謝ろうと思ったが、腕を握った感触に違和感があることに気付いた。「雨」の腕を擦って、袖を捲ると無数の深い傷があって、明らかな自傷の傷だということが直ぐに分かった。ここまで酷くはないが、私にも経験があった。
「雨、どうしたと言うんだ。こんなことをして。苦しいのか、苦しいんだね」
そう言った瞬間、私はぼーっとして「雨」は消えていた。額に手をやって、私は膝を付いた。私の欲望が「雨」を傷付けていることは、明朗だった。心臓が締め付けられる様に感じて、手は震え始めていた。

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